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2018年 第18回 東京国際音楽コンクール<指揮>
審査員インタビュー

第18回東京国際音楽コンクール<指揮>で、初めて審査員として参加した世界的ヴァイオリニスト、カン・ドンスク氏。70年代から世界有数のマエストロと共演し、メジャー・レーベルでレコーディングも行ってきたドンスク氏に、コンクールの感想やアジアの音楽事情に関する見解を訊ねた。

─ 今回初めて審査員として参加されていかがでしたか?
「大変興味深い経験をしました。日本側のスタッフはとても献身的に運営に関わっておられて、全てがパーフェクトに進められているのです。運営面での経験値の高さを感じました。ヴァイオリンのコンクールなどではよく審査員を務めるのですが、指揮の審査をするは初めてで、これも新鮮でした」
─ 指揮者の方と見解が異なる点などはあったのでしょうか?
「ディスカッション等はなく、投票をする形で進められました。それぞれの審査員にとって見解は違いますし、好みもあると思います。
一番大切なのは音楽ですので、指揮の技術的な面より、どれだけこの音楽を理解しているか、この音楽についての知識をもっているか、という点が審査に反映されるべきだと思っています」
─ ファイナリストは日本人が3人、韓国系カナダ人が1人で全員がアジア系でした。
「ピアノやヴァイオリンに比べて、指揮に関してはアジア系はまだ少ないかも知れませんが、若い世代では台頭してきています。それを実感できるファイナルでした。本選もそうですが、コンペに選出された18人の皆さんが、とても高い技術を持っていたと思います。私自身、ヴァイオリン奏者として数々の指揮者と共演してきましたが、自称プロという方でも、今回参加された18人の方よりも、正直な話劣っている方もいらっしゃるのです」
─ とても興味深いお話です。どういう点が劣っていると感じられるのですか?
「すべてにおいてです。今回はコンチェルトの課題もあり、ソリストの方とのやりとりも含めての審査でしたので、すべての面で若いコンテスタントたちの方たちが素晴らしいと思いました」
─ 結果として、1位から3位まで日本人が入賞しましたが、西洋音楽をアジア人が演奏する場合、どういう点でアイデンティティを出していくべきか、あるいは出さないでおくべきか、お考えを聞かせてください。
「アジア人らしさというのは、自然ににじみ出てくるものだと思います。「私が、私が」と主張するものではなく、育った文化や背景は自然に現れてくるものではないかと。西洋で勉強に励んだとしても、自分の文化は根底に存在しているもので、うまく出していけば個性になります。文化的な違いという点では、アジアの人々いうのは西洋より厳格な文化の中で育ってきていると感じますね。西洋の人たちは躊躇なく自分を表現しますが、東洋の人たちはオープンになることに努力を要するのです。それでも、若い世代では違う側面を持っていると感じます。バリアのようなものが以前より少なくなってきている」

─ 新しい世代は変化が起こっているのでしょうか。
「今の若い世代の人たちは、西洋文化そのものが自分たちに組み込まれているのでしょう。私が若かったころは、あまりアジア人でクラシック音楽に携わっている人は少なかった。日本は先頭を切っていましたが、アメリカでもアジアの留学生は感情表現が足りないと言われることが多かったのです。時代は進み、文化的環境という面では日本・中国・韓国はもはや劣っているとは言えないと思います」
─ 韓国でのクラシック事情を教えてください。
「20~30年前に比べると、音楽を学びたいと思う生徒の数はピークを過ぎていて、音楽学校は毎年減っています。音楽より、むしろゴルフなどのスポーツに関心が向いているようです。政治的には韓国文化を売り出すためにK-POPを推進しているように見えます」
─ スポーツやエンターテイメントに関心が向かっているのでしょうか。
「どの分野でも、エンターテイメント性は強く求められている時代だと感じます。クラシックでも、指揮者は見た目を重視されていると思うことがあります。派手で大ぶりな指揮が人気ですが、私はそれが必ずしも音楽を理解しているとは思わないのです。どれほど音楽を知るか、どうやってオーケストラに説明していくか、『深さ』が重要なのです」
─ 指揮者と共演する立場から見て、演奏家にとって理想の指揮者とはどのような存在でしょう。
「非常に繊細な質問です。『態度が重要』と申し上げておきましょう。指揮者の中には交響曲だけが得意で、ソリストと一緒にやっていくという考えがそもそもない方もいます。ソリストと仕事ができるのは、特別な才能なのです。呼吸を合わせたり、相手が何を求めているかを聞いてくれたり、そういうプロセスがないと、問題が起こりやすくなります。審査員の方の中では、ラザレフ氏、スダーン氏、尾高氏、高関氏と共演してきて、特に尾高氏とは数多くやってきましたが、本当に素晴らしいマエストロです」
─ 指揮者だけでなく、演奏家全般を見たときに、若者たちに世代的な特徴は感じらますか?
「ヴァイオリンなどは、30年前に比べて技術的には向上しています。理解や深みに通じているかはまた別の話なのです。自己主張の希薄さが指摘されることもありますが、これは年を重ねるごとに変化していくと私は考えています。時間をかけないと現れてこないものもあるのです。圧力鍋に入れて、はい出来上がり、というのは音楽では出来るものではないですからね」

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