2018 18th
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入賞デビューコンサート
若い指揮者3人の果敢な挑戦
宮沢昭男
若い指揮者3人が大きく羽ばたいた。「第18回東京国際音楽コンクール<指揮>2018」受賞者の「入賞デビュー・コンサート」である(2019年5月21日、東京オペラシティ・コンサートホール)。
昨秋同コンクールで3つの賞を日本人が独占したこと、そして初の女性優勝者を選出したことは記憶に新しい。
世界42カ国・地域から238名の頂点を目指してしのぎを削った。受賞の成果とその後の成長ぶりが焦点に上り、どんな指揮者かと品定めに余念がない。優勝した沖澤のどかさんがこの2月、東京二期会「金閣寺」公演・副指揮者の大任も果たした後だけに、期待は高まる。
それを象徴するのが開会あいさつの審査委員長、指揮者・外山雄三氏の言葉。「会場のみなさん、気に入らない音楽だったら、どうか拍手をしないでください。音を立てて出て行かれて構いません」、と。
真剣な眼差しと渋味あるあの鋭い声に、毎回懸命に選出してきたことへの自負と、受賞者への厳しくも熱いエールがにじむ。それは芸術家として生き抜くことがいかに困難か、熟知するから口にできる言葉。長い音楽家人生の教訓から、聴衆に望む率直な気持ちと、これから音楽界を背負って立つ指揮者に、その覚悟を求め、文化の担い手としての自覚と、ともに一線に立つことを期待する大先輩からの思いが手に取れた。
彼らはこの日、東京都交響楽団を指揮する。同コンテストを通じて向き合う4つ目の楽団 である。若い指揮者には、実際にオーケストラを振ることだけでも貴重な機会だ。しかもいずれも日本のトップクラスの楽団である。それに向き合えるのは、私たちの想像超える厳しさと、得難い勉強の場に違いない。
最初にタクトを振ったのは熊倉優氏(第3位)。1992年生まれ。本選に残った4人の中では最年少だった。曲はチャイコフスキーの幻想的序曲「ロメオとジュリエット」。
序奏から第1主題に入ると、際立つ低弦の響きに驚いた。コンクール本選のドヴォルザークでは、ここが課題に思えた。それをすっかりクリアーしている。指揮する腕も滑らか。コンクールでは、9歳離れた人たちに混じってハンディは拭えないように見えた。左右の腕は見違えるほどに分離ができ、左手は音楽に表情を求めて雄弁。
終演後に尋ねると、「受賞後、現場経験をさらに積むため、九州交響楽団、群馬交響楽団、そして兵庫芸術文化センター管弦楽団に出向いて振らせてもらいました」。左腕の手際よさに話を向けると、「それはもとから得意とし、それに頼り過ぎるのを自分でも注意しています」と率直。将来が楽しみだ。
次は横山奏氏(第2位)。コンクール本選課題曲では、年齢差を生かして経験豊富な腕前が印象に残る。この日の曲はコダーイのハンガリー民謡「孔雀は飛んだ」による変奏曲。本人も「難しい曲を選んだ」というように、次々展開する変奏曲がやや平板に流れた。変化に富むテンポ、多様な音の強弱に今後の課題を見せた。とはいえ、非常に挑戦的かつ意欲的な選曲。その点を尋ねると、出身の札幌で早くから「コダーイ・メソッド」で育ち、自分の本領を発揮すべくコダーイを選んだそうだ。自己の音楽の原点を大切にする人柄が魅力的。大輪を咲かせてほしい。
そして沖澤のどかさん(第1位)。メンデルスゾーン交響曲第3番イ短調「スコットランド」を取り上げた。譜面には全楽章間に「アタッカー」の指示があり、4楽章を通す作品を選ぶ意気込み。曲全体も前2曲のほぼ倍と長い。これをどう料理するか。
短調の曲調ゆえか、それとも気負いからか、出だしは音楽が重くのしかかる。だが沖澤さんは、突破口を見付けるとガラッと流れを変える。これは彼女の持ち味なのだろう。
トゥッティでテンポを速め強奏に入るや、一気に楽団を掴んで音楽をリードする。各パートが勢い付き、弦は艶を出し、木管は華麗な響きで旋律を浮き上がらせ、フルートの音が降り注ぐ。沖澤さんは、作品の推進力を指揮の求心力に転化する才があるようだ。
このタイプの指揮は音楽に疲れを知らない。曲が進むほどに乗ってくる。同作品の特徴でもある終楽章コーダの全休止、一旦止めた棒を振り上げた沖澤さんのその後の曲調の変化に、ホルンも見事な咆哮で応えた。天を突き抜けるような清々しい響きにこの日、多くの聴衆が全身に震えが走ったに違いない。曲が終わるや一斉に「ブラボウ」の声が上がった。圧倒的な感動で会場を沸かせた。
終演後に感想を聞くと、「リハーサルは最初、なかなかつかめなかった」そうだ。しかし「都響の皆さんが温かく、積極的に応じて助けられた。曲の美しさにも助けられた」と。あの感動を引き出したのは実力だ。会場の誰もが手応えを感じたに違いない。
3人はそれぞれ自己の持ち味を生かし作品に挑んだ。デビューコンサート後、東京二期会は、翌年の「メリー・ウィドー」新制作公演に沖澤さんの起用を発表した。3人の果敢な挑戦に期待を強くした。